コラム・事例紹介

新潟市・都市政策部 池田博俊「市民によるまちづくりを促進する、"行政参加"のまちづくり」

池田博俊

池田博俊(いけだ・ひろとし) 新潟県新潟市

新潟市役所・都市政策部 次長
1978年新潟市役所入庁。これまで関わった主なプロジェクトは、「千歳大橋建設」「マンホール蓋デザイン」「第四次総合計画策定」「雨水浸透桝助成制度」「下水道絵本創作」「小路めぐりマップ」「まちなか再生本部」。平成18年「まちづくり推進課長」、平成21年「政策監」、平成23年都市政策部次長。

新潟県の県庁所在地・新潟市は、平成19年に政令指定都市となり、平成20年には中心市街地活性化基本計画が内閣総理大臣認定を受け、平成21年には「新潟市まちなか再生本部」が設置されるなど、まちなかの再生に向けて市をあげた取り組みが進められています。

こうした制度的な枠組みは行政が担うものの、まちづくりの主体はあくまでの市民の方です。そこで、まさに市民が主体、行政がサポート役となって進めてきたのが、「新潟の町 小路めぐり」というシリーズのマップづくりや「まちなかお宝解説版等整備事業」です。

ウェブサイト、トップページ
新潟の町 小路めぐり 〈新潟市中央区本町通り界隈編〉1面(上)・2面(下)。マップはこちらのサイトからPDF形式でダウンロードすることができる

街元気サイトのマップ特集でもご紹介いただいたこの事業は、市のプロジェクトとしては平成18年度から始まったものですが、きっかけは、それより以前にさかのぼる一人の市民の活動でした。

「ないものねだり」から「あるもの探し」へ

小路案内札
市民がゲリラ的に貼った小路案内札

初めて見つけた時、「これだ!」と頭の上に光が閃き、胸が高鳴りました。下町の電柱にぺったりと貼られたラミネートの札。そこには小路の名前とイラストが描かれていました。とりわけそのイラストの質の高さに強く惹かれたのです。

当時私は市のまちづくり推進課にいて、まちなか再生のアイデアを探していました。平成16年度のことです。3年後の政令指定都市移行を控え、これまでにない政令市として個性あるまちなかの姿を求めていたのです。

リトル東京を良いものとし「ないものねだり」を続けていては個性も生まれない、新潟らしさとして「あるもの探し」をしなければ。ある意味「まちづくり」の時代は終わった。これからは「まちづかい」だ──そう確信していました。

そんな時期にまち歩きをしていて、その小路の札が私の目に留まったのです。まちなかに誰もが当然の空間として気にも留めない小路が、そこに積み重ねられた人々の暮らしをずっと見守り続け、長い歴史を超えて、いまなお存在している。そのことこそが新潟のDNA、まちの宝なのだと気づきました。

まちづくりで、行政に求められる役割とは?

私は、その電信柱にラミネートの小路の札を貼った主を探しました。そしてそれが新潟の下町の魅力発信の活動をしている野内隆裕という人物だということがわかったのです。野内さんはイラストレーターを生業としているわけではなく、新潟のまち、そして小路への愛に溢れる一市民で、その思いが高じて自ら小路のイラストを描き、それを電信柱に張るという振る舞いに出たのでした。

私は野内さんに積極的にアプローチを仕掛けました。野内さんが登場するシンポジウムなどに必ず参加し、繰り返し声をかけ、自己紹介し、顔を覚えてもらおうとしました。

ちょうどその頃、中心市街活性化に向けた計画策定が始まろうとしていました。私は「まちづくり」とは本来、市民の発意でことを起こし、その活動範囲のなかで市民ができることを楽しみながら続けること、と思っています。その上で、活動範囲の境界を拡げる、あるいはハードルを下げることが行政の役割だと思っています。私はこのことを市民が取り組むまちづくりへの「行政参加」と呼んでいます。

この計画策定では市民が主人公と考え、まちなかで独自の活動を展開している方々に参集してもらいました。もちろん野内さんにラブコールを送り、この会議に参加してもらったのです。それからはさらに野内さんへの攻勢を強めます。顔を合わせるたび、市とコラボでしっかりした案内板を小路に設置しようと持ちかけました。最初は戸惑っていた野内さんにも、だんだんこちらの誠意と本気が伝わり、その気になってくれました。

こうして「小路」を新潟のまちの個性、宝として磨き、市民に誇りと思ってもらえるよう、そして「小路」がまち歩きのキラーコンテンツになるよう、前述の基本計画に小路案内板設置と、それらと同じコンテンツを載せた小路めぐりマップ作成を盛り込み、文字通り「行政参加」のまちづくりが動き出したのです。

"行政参加"のまちづくりをプロデュースする

小路の佇まいを表現する写真とイラスト
小路の佇まいを表現する写真(左)とイラスト(右)

このプロジェクトのなかで私の役割は、いわばプロデューサー役でした。どのようなスタッフでチームを組むか、これがカギです。

野内さんはイラストレーターではありません。趣味の人です。それなのにイラストの完成度はプロ並みです。すべては野内さんの小路に寄せる情熱が成せる技なのです。この特異性をよく理解し、野内さんの情熱をレイアウトするデザイナーが必要でした。

それが誰なのか。私が野内さんに出した条件は、野内さんの思い通りに気に入った人と自由にやってほしい、ということだけでした。

そこで登場するのがデザイナーの上田浩子さん。息の合ったこの二人のブッキングはわくわくするようなスパークを期待させました。

しかし専門の二人だけでは細々した調整に限界があります。その「触媒」となる人間が市の街づくり推進課(当時)の担当職員・加藤絵美さんでした。加藤さんは、たまにぶつかり合う野内さんと上田さんの間に入り、我慢強く作業調整に努めました。後に野内さんから「加藤さんはこのプロジェクトを通じて素晴らしく市民目線の優秀な市職員に成長した」と大絶賛されます。加えて加藤さんは小路案内板の設置工事も担当し、設置箇所の地元住民の同意を得ながら精力的に事業推進に取り組んだのでした。

小路めぐりがもたらした、まちへの「誇り」

そして平成20年3月、小路めぐりマップ1万部が発行されるや、わずか1週間ですべてなくなり、すぐさま1万部増刷しますが、それも4ヶ月足らずで底をつき、同年7月さらに1万部を増刷という爆発的な人気を博します。翌年「同古町編」を追加し、両方あわせてこれまでに9万8千部が発行されました。本であればベストセラーと言ってもいいくらいのヒットでしょう。

さてこの小路めぐりマップの反響にさっそくメディアが着目しました。新聞各社や地元テレビ各局が特集で取り上げます。私も地元FMラジオの人気キャスターと一緒に小路を巡りながらレポートするという番組に出させてもらいました。ミニコミ誌にもたびたび紹介されました。この頃から野内さんは、新潟の小路めぐりの雑誌掲載の最終目標として「目指せ!るるぶ」と言い出すようになりました。

それからじわじわとまち歩きで小路めぐりをする人が増えてきました。インターネットで、実際に新潟の小路めぐりをしたレポートをアップするブログが多くなったのです。また週末にはマップを手に小路を歩く女性をよく見かけるようになりました。まち歩きブームの到来にあわせた新潟小路めぐりのブレイクを予感しました。

まち歩きツアー
まち歩きツアーでガイドとともに小路をめぐる市民
スタンプラリー
子どもたちが大喜びのスタンプラリー

そして一番の効能は、まちの当事者に変化があったことです。小路に住む人、小路で商売をする人、隣接する商店街の関係者、それぞれが小路の良さに気づき、誇りに思い、語り、小路を活かす取り組みを始めたのです。それぞれの小路で商売をしている魚屋さんや浜焼き屋さん、食堂でも小路マップを置いて、お客さんに配っています。

さらに本町通5商店街では毎年のイベント「千灯まつり」で、小路のイラストを絵柄に使った灯篭をつくり、通りいっぱいに天の川のように並べました。そのイベントとあわせ、小路のイラストをスタンプにして小路案内板の箇所に置き、スタンプラリーも行いました。この時スタンプ帖を手に小路から小路へと走りまわってスタンプを集める子どもたちの姿が、まちなか本来の懐かしいシーンを思い起こさせました。 

また、下本町市場の豆腐屋さんでは小路のイラストをあしらったエコバッグを制作。「ロジバッグ」と命名して販売し、バッグ持参のお客さんには笑顔とちょっとしたサービスをしています。

「まちづかい」の真髄とは?

東日本大震災を経て、「まちづくり=ハード整備ありき」の時代は完全に終焉を迎えました。

私たちは、あらゆるフェーズでこれまでの価値観、考え方を変えざるを得なくなっています。もちろん「防災まちづくり」というハード整備は最優先課題です。しかし「ないものねだり」の知恵と工夫もなく、地域の歴史や文化に根付かないハード整備はもう無用です。

まさにまちなかの宝を見つけ、それを磨き、物語性を持たせ、新たな価値を付加する取り組みこそが「まちづかい」の真髄と言えるでしょう。そしてそれは「まち歩き」というかたちが最大の効果をもたらしてくれると実感しています。キャッチコピー的に言えば、「ヒストリー(歴史)がストーリー(物語)でつながるストリート(通り)づくり」というところでしょうか。

最後にこれを付け加えさせてください。2010年版「るるぶ新潟版」にまち歩きガイドとして小路めぐりが掲載されました。さらに今年、小路めぐりマップシリーズが日本都市計画学会による「自治体まちづくり優秀グッズ賞」の栄冠に輝いたのです。バンザイ!

登録日 2011年10月31日(月曜)00:00

ログイン

新規会員登録はこちら

メールマガジン配信内容募集中

マチイベ!(街のイベント)募集

-中心市街地活性化-まちづくり-サイト内検索

-中心市街地活性化-まちづくり-もっと詳しく検索する

好きなまちで挑戦し続ける

街元気パンフレット

街元気サイトツイッター

街元気facebook

  • -中心市街地活性化-まちづくり-経済産業省
  • -中心市街地活性化-まちづくり-中小企業基盤整備機構
  • -中心市街地活性化-まちづくり-全国商店街支援センター
  • -中心市街地活性化-まちづくり-中心市街地活性化協議会 支援センター
  • -中心市街地活性化-まちづくり-J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト