コラム・事例紹介

まちづくりQ&A「現代版家守」によるエリア再生のプロデュース~清水義次(PART1)

  • 清水 義次

    清水 義次(しみず・よしつぐ)

    建築・都市・地域再生プロデューサー/株式会社アフタヌーンソサエティ代表取締役/東洋大学経済学部大学院公民連携専攻客員教授

    東京大学工学部都市工学科卒業後、コンサルタント会社を経て1992年(株)アフタヌーンソサエティ(行動型シンクタンク)設立。都市生活者の潜在意識の変化に根ざした建築のプロデュース、プロジェクトマネジメント、都市・地域再生プロデュース、家守事業プロデュースを行っている。最近は現代版家守業の実践と啓蒙に注力し、神田、歌舞伎町、盛岡市、岩手県紫波町、北九州市などで、遊休不動産を活用し都市型産業を育成して雇用創出を行い、エリア価値を向上させていく家守ビジネスモデルを構築している。

清水義次さんは、「現代版家守」を掲げて、東京・神田や北九州市小倉などで中小の空きビルを新たな産業創出の場とする地域づくりの支援を行っています。

たとえば小倉では、十数年使われていなかった建物がリノベーションによって、クリエイターの店舗など10軒が入居する「メルカート三番街」として生まれ変わったのを皮切りに、同じく空き店舗をリノベーションした起業支援型店舗施設「ポポラート三番街」やシェアオフィス「MIKAGE1881」などが2011年6月以降続々とオープンするなど、まちにダイナミックな変化がもたらされています。

こうした「現代版家守」によるエリア再生のプロデュースについて、基本的な考え方と具体的な進め方を伺いました。

ポポラート三番街
2012年4月小倉の魚町商店街にオープンしたインキュベーション型店舗施設「ポポラート三番街」。北九州でものづくりに携わる若手クリエイター71人が出店、若者を商店街に呼び戻している(撮影:らいおん建築事務所)

「現代版家守」とは?

衰退エリアで空きビルを活かして産業を起こす、「長屋の大家さん」

――清水さんが提唱されている「現代版家守」とはどのようなものなのでしょうか?

「現代版家守」は一言で言うと、都市活動が衰退したエリアで、空きビル・空き家・空き店舗などの遊休化した不動産を上手に活用して、その地域に求められている新しい産業をつくり、まちを変えていこうとする活動を行う職能です。

まず、まちに仕事をつくり、その仕事の担い手たちがまちにオフィスを構え、まちに住むことで、まちを活性化することができると考えています。

清水義次さん
清水義次さん

そもそも「家守」とは、落語に出てくる長屋の大家さんのことです。江戸時代、不在地主に代わって家屋を管理する役割を担い、店子から持ち込まれたありとあらゆる面倒ごとの相談に乗ったりして、店子に慕われていたそうです。

江戸後期、家守が2万人いたという記録が残っています。当時、江戸のまちの町人人口は60万人ですから、30人に1人の割合で家守がいて、まちの維持管理をしていたんです。町人が自分たちのまちをつくり守るために、幕府からお金をもらわずに独自にそういう仕組みをつくっていました。

これを現代に蘇らせて、民間によるまちづくりに活かそうと、2002年からチームを組んで実行してきました。私はいわば「現代版家守一号」です。

不動産オーナーと一緒に進めるエリア価値の向上

「現代版家守」の活動で強調したいのは、「不動産オーナーと一緒にまちづくりをする」という考え方です。

私は「敷地に価値なし、エリアに価値あり」と言い続けています。エリアに魅力がなければそもそもその施設やお店を訪れようとはしない。人はまずエリアを選択し、次にそのエリア内の個別施設を選ぶはずです。そこで不動産オーナーの方には、敷地至上主義を捨ててエリア全体の価値向上のために自分たちで何ができるかを考え、行動することが重要だということを理解していただきたいと思っています。

資産価値を高めて、なお且ついいコミュニティをつくるのがまちづくりの課題ですが、そういう意味で不動産オーナーには最初からまちづくりに対して責任があるんです。いいまちをつくって維持していくことを目標に、“志”と“そろばん”を両立させ、自立して経営できるような不動産の投資のプロジェクトを考えましょうということです。自立というのは、民間の人が自分でお金を出して、それを回収できること。財源が補助金によって賄われているケースは、継続的な運営が不安定になってしまいます。

やる気のある若者や地域の大学、行政も上手く巻き込みながらやっていくと、エネルギーを投下したぶんだけ、自分の資産価値改善につながる可能性がある。そういうことに意識的な、志のあるスマートな不動産オーナーとともにまちづくりを実行していきたい。

こんなことを言うのは、不動産オーナーが関われば、まちに関わる他のプレイヤーが動き出すからでもあるんです。

たとえば、不動産が動けば投資の機会が生まれますから、必ず金融機関が絡んでくる。電気屋さんやガス屋さんや水道屋さんのようなインフラ屋さんもそうです。ぜひこのあたりの方たちにもまちづくりに関わって欲しい。不動産オーナーだけではにっちもさっちもいかない今、まちづくりにとって重要な隠れたプレーヤーにも立ち上がって欲しいと思っています。

きっかけは東京・神田の問屋街再生

――「現代版家守」の取り組みを始められるきっかけは何だったのでしょうか?

東京では1990年代の終わり頃から、六本木ヒルズをはじめとした巨大ビルの再開発事業を目前にしてオフィスビルが供給過剰になる「2003年問題」が取り上げられるようになりました。

こうした背景のもと東京都千代田区では、かつての問屋街である神田・裏日本橋エリアが衰退しつつあったことから、「千代田SOHOまちづくり検討委員会」を開いて、老朽化した小さい空きビルにSOHO事業者を誘致する構想を策定しました。私は、その構想を実現していくところでお声がけをいただいたんです。

2002年に開かれたその検討委員会で、当時千代田区の職員をされていた小藤田正夫さんという歴史研究家の方から、江戸の「家守」のことを伺いました。私はずっと以前から「まちづくりは民間がやるものだ」と言い続けていたので、すぐに「これだ!」と思いました。そこで、江戸の家守を現代に蘇らせる「現代版家守構想」としてプロジェクトチームをスタートさせることになったんです。

そして翌2003年に、神田・裏日本橋エリアの遊休不動産を活用して地域に新しい人材を呼び込み、持続型の産業創造を行うことを目的とした、「神田RENプロジェクト(Regeneration Entrepreneurs Networks)」がスタートしました。

RENプロジェクトでは、神田駅近くの空きビルに、「REN-BASE UK01」という民間で自由に使える寄合所でありながらSOHOまちづくりを謳うシェアオフィスのモデルとなる拠点を5年間暫定でつくりました。また、「セントラルイースト東京(CET=Central East Tokyo)」という、遊休化した不動産を舞台にしたアートイベントを補助金一切なしで8年間続けました。

その結果、2010年頃にはギャラリーだけで35軒ほどの集積ができ、神田・裏日本橋エリアは、「いまや東京一のアートタウン」という触れ込みで雑誌に特集され、現在はカフェや雑貨屋さんなども合わせて100軒を超える集積になっています。

また、同じく「現代版家守」の手法で、廃校になった中学校をアートセンターとして再利用し、2011年にオープンした「3331 Arts Chiyoda」は、年間60万人を集客しています。

この東京・神田での経験やノウハウを活かして、現在は小倉や岩手県の盛岡や紫波町で、それぞれ家守チームが結成され、地域の再生に乗り出しているんです。

エリアのプロデュース=衰退するまちに変化をもたらす

コンテンツ(人・産業)からまちを変える

――「現代版家守」としての活動は、何からスタートするのでしょうか。

いわゆるエリアマネジメントは、安定した基盤を持つまちが、それを維持するために考えるべきことではないかと思います。衰退局面で必要なのは、維持するためのマネジメントではなく、上昇局面へと持っていくために変化をもたらすことです。

ですから私は「エリアマネジメントの前に、衰退するまちに変化をもたらす“エリアプロデュース”が必要だ」と考えています。

変化を起こすといっても、いきなりまち全体を変えられるはずがありません。なにより重要なのは、「スモール・ビジネスモデル」とも呼ぶべき不動産活用事例をつくり、成功、伝播させていくことです。

「まちづくり」というのは「まちのコンテンツづくり」なんです。ハードはもう沢山余っているんだから、そこに注ぐコンテンツを用意しなくちゃいけないんです。

そのコンテンツは第一に人、次に産業です。

まちにとって最高のコンテンツは人なんです。「あの人がいるから」というのは、まちを訪れる一番大きな動機付けになる。面白い人を引っ張ってきて、それがある集団になると、自然と人はまちを訪れるようになります。

産業としては、最近では衣食住、特に食と住に関わるライフスタイルに世の中の関心が移っています。それから、スポーツや芸術、デザインといった分野は、新たな産業が育っていく源になる可能性がありますから重要です。そういったことを楽しみながら、変化の兆しを掴んでいくといいでしょう。

そこから変化をつくりだしていくためには、何をどういうチームで仕掛けるかを考える必要があります。

「これをやっておけばいい」という単純なものではありませんから、拠点や情報発信、情報発信のために仕掛けるイベントや大学のような他機関との連携等、複線でまちづくりのシナリオを描き、それを動かしていかなければいけません。

特徴のあるスモールエリアをつくる

対象エリアを設定することは、まちづくり成功への第一歩です。大事なのはエリアを広く設定し過ぎないこと。目安になるのは、半径200mから300m圏、徒歩で5~6分で端から端まで歩けるサイズです。

たとえばヨーロッパの諸都市で賑わいや観光の中心となっている旧市街というのは、20haから30ha程度の緻密でまとまりのあるまちです。人間が歩くことを基準として、ヒューマンスケールでエリアを設定するんです。

そこに、魅力的なコンテンツ(人・産業)をどう呼び寄せていくかを考えていけばいいんです。

「現代版家守」の実践手法

「家賃断層」で動きやすいエリアを見つける

――東京の問屋街の再生で得られた経験やノウハウを地方都市でも活かしているということですが、具体的にどんな方法で進められているのでしょうか。

最初にやるべきことは、エリアの実勢家賃(これは公示地価でも代用できます)を調べることです。これを調べると、同じような交通アクセスにありながら、家賃(地価)に大きな変化があることがわかります。私はこれを「家賃断層」と呼んでいます。

東京の神田でも、下図の左側では、2003年当時でオフィスの賃料は月坪あたり35000円を下りませんでした。ところが家賃断層のすぐ右側では、神田駅からの距離はそれほど変わらないにも関わらず、月坪あたり共益費込みで1万円割れを起こしていました。つまり、3.5倍の家賃断層があったんです。

神田・裏日本橋エリアの家賃断層
神田・裏日本橋エリアの家賃断層

馬喰町、横山町あたりの半径300メートルくらいのエリアは、鉄道駅からほど近いにも関わらず、同じ家賃で3.5倍のスペースが借りられるということです。これはクリエイターの人たちにとってはたいへん魅力的な、可能性のあるエリアだと思いました。

そのエリアが疲弊していればいるだけ、大きな家賃断層があります。放っておいてもテナントが入る表通りはプライドも高く、変化を起こすのは大変です。ところが家賃断層線のあたりでは、家賃も低く設定できるので若くてエネルギーがある人が入って来やすくなるため、コトを起こしやすいんです。

「絶対賃料」と「暫定利用」でリスクをとって投資する「転貸ディベロッパー」

2003年当時、神田駅近くに拠点をつくろうとした時にすぐわかったのは、ビルオーナーが投資できる状況ではないことでした。減価償却済みの資産でも結構な固定資産税や都市計画税がかかり、6割くらいが空室になっていると掃除やエレベーターのメンテナンスだけでも結構お金が掛かかってしまっている。

そういう状況のなかで、オーナーだけにリスクを負わせる仕組みではコトは動かない。「現代版家守」として自らがリスクをとって投資することが必要でした。「REN-BASE UK01」の場合は105坪のワンフロアを期間限定で借りて、投資を行ったんです。現代版家守はこのように自らリスクをとって行動する「転貸ディベロッパー」でもあるんです。

「転貸ディベロッパー」として投資を行う際に大事なのは、「絶対賃料」と「暫定利用」という考え方です。

まず、「絶対賃料」は「家賃をいくらにするか」を考える時に使います。

建築に投資して、その投資額から「坪あたり2万円」という家賃を設定して、いざテナントを募集しても入らない、というのは最悪です。建物への投資コストが先に立ってはいけないんです。

先ほども言いましたように、「まちづくりはまちのコンテンツづくり」であって、その最高のコンテンツは人ですから、どんな人に入居して欲しいかは、まちをどう変えるかというコンセプトそのものです。

まちを変えるというビジョンを実現するにはどんなテナントを呼ぶ必要があり、その人たちはいくらだったら入居してくれるかが先に立たなければいけないので、そこから逆算していくんです。

そこで、事前にテナントに「月額いくらまで払えますか?」とヒアリングをして、出てきた答えが「絶対賃料」です。そこから、改修費用を逆算して算出する。

平たく言えば、「この人に入ってもらいたい」という人に、「いくらなら入れる?」って聞くだけです(笑)。

不動産の付加価値は、空間のサイズを小さくすればするほど、時間を小分けにすればするだけ、上がるようになっています。だから、「絶対賃料」にもとづいて空間を割り、それに見合った投資を行うべきですが、その投資を何年で回収するかを考える時に使うのが、「暫定利用」という考え方です。これは、投資を回収する期間をあらかじめ設定しておくということです。

要するに、一方で「入居しやすくする仕組み」をつくりだすと同時に、もう片方で「不動産の付加価値」を上げようとしているんです。

中心市街地のようなところでは、もともとある遊休不動産をリノベーションすることで改修費用を抑えるのが現実的な手法になると思います。新築を否定するわけではありません。「絶対賃料」や「暫定利用」の考えにもとづいて投資計画が立てられるのなら、新築だっていいんです。

エリアの不動産の状況を正確に把握する

エリアプロデュースのためには、対象エリアにおける不動産の状況を正確に把握することが必須です。貸しに出されている物件だけを見てしまいがちですが、そうではなく全部の不動産の現況調査をする必要があります。

たとえば、疲弊したエリアのビルでは、ワンフロアがまるまる粗大ごみの山に占拠されていて、外には貸し出してないということが実はたくさんあります。貸しに出されているものだけが「空き店舗」ではないんです。

加えて、民間の不動産だけでなく、あまり有効活用されていない公園のような公共空間も含めて、遊休化したすぐに使える資産がどれだけあるかという状況を正確に把握する必要があります。

また、SOHO事業者が入るというような時に、設備で気をつけるのは「電気容量」です。電気代は安いけど、キュービクルの投資は高いんです。新たな幹線を引き直したりするコストは馬鹿になりません。用途や業態に応じて設備がどの程度必要かみたいなことも含めて、基礎的なデータがなければ、まちづくりは始まらないでしょう。

PART2に続きます

 

 

登録日 2012年11月27日(火曜)00:00

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