コラム・事例紹介

まちづくりQ&A「地域の食材と人を活かす『食のまちづくり』」~食材のテキスト化とワークショップ~金丸弘美(PART1)

  • 金丸 弘美

    金丸 弘美(かなまる・ひろみ)

    食環境ジャーナリスト、食総合プロデューサー

    執筆活動のほか、食の総合プロデューサーとして、ワークショップのプラニングから、プロモーション、ツアーへの展開、公開授業、幼稚園から大学まで各学校での食の講師などもてがける。執筆活動のテーマは、地域デザイン、食育と味覚ワークショップ、食からの地域再生、環境問題、地域活性化。日本ペンクラブ会員環境委員会副委員長、総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師など要職多数。著書に「田舎力 ヒト・夢・カネが集まる5つの法則」(NHK生活人新書)「幸福な田舎のつくりかた:地域の誇りが人をつなぎ、小さな経済を動かす」(学芸出版)ほか多数。

おいしい飲食店には人が集まり、まちに日々の賑わいを生み出します。また、その地域ならではの料理、食文化は、そこに暮らす人々の誇り、アイデンティティとなります。地域内外の人々で賑わう魅力的な飲食店や地域食材を扱う市場などを集積させていくことは、中心市街地の活性化の方策としても有効です。

金丸弘美さんは、地域食材の徹底したリサーチに基づき、その特徴を活かしたおいしい料理開発等によって、地域の農家、事業者、消費者が主役になる持続的な「食のまちづくり」を全国各地で応援しています。 今回は、金丸さんの進める「食のまちづくり」の基本的な考え方と具体的な進め方を伺いました。

讃州のめぐみ やさしい食卓
高松丸亀町商店街にあるレストラン「讃州のめぐみ やさしい食卓」。地元農家から直送される野菜や、高松港に陸揚げされる魚介類を使い、丁寧に作った料理がビュッフェスタイルで愉しめる。2010年1月のオープン以来、多くの人びとが足を運んでいる。

地域食材を活かした、地域が主体となる持続的な「食のまちづくり」

商店街が生産者と消費者をつなぎ、安全で質の高い食を提供する

――金丸さんは各地の「食のまちづくり」を支援されていますが、まちなかの商店街を舞台とするものはありますか。

香川県高松市の高松丸亀町商店街では、安心安全で持続可能な食環境づくりに向けた「高松市丸亀町商店街 食のプロジェクト」を進めています。商店街が食材の仕入れから加工、サービスまでを一貫して行い、より安全で質の高い食を提供しようというものです。もともと同商店街に飲食店はほとんどありませんでしたが、再開発をきっかけにして、地元の食材を使用した料理を提供する飲食店などから構成される「オリーブガーデン」と銘打った空間を作り出しました。そこでは通常メニューに加え、1つの地元食材をテーマにして、5つの飲食店がそれぞれの個性を打ち出したメニューを提供する「1FOOD=5STYLE」などの取り組みも行われており、まちなかの新たな魅力として、地元住民だけでなく県外から訪れる人々でも賑わっているようです。

「1FOOD=5STYLE」の紹介パンフレット
「1FOOD=5STYLE」の紹介パンフレット。5つの飲食店で月ごとに1つのテーマ食材を取り上げ、ビュッフェ、イタリアン、鉄板焼、お惣菜、スイーツの5つのスタイルで提供。

私は「食プロジェクト」が動き出す最初の段階でお手伝いをしました。私が提言したのは、高松市の地域食材を徹底的にリサーチし、洗い出し、食材の背景を明確にすること。そして、その結果をテキスト化すること。加えて実際にレシピまで考案し、商店街のレストランで商品として売り出すまでを一貫して行うということです。

丸亀町商店街は、独自の機関誌「Anki」というすぐれたタウン誌が年に4回刊行されていました。ここの女性スタッフ2人が「食調査チーム」として、地域の食材を徹底的に調べてテキスト化し、その内容をわかりやすく噛み砕いて紹介してくれています。連載を最終的には単行本にするということで動いているようですね。

食材をその料理方法とともに紹介する、料理の試食会を兼ねたワークショップを、オリーブガーデンのレストラン「やさしい食卓」で開催しました。レストランのシェフがつくる地場産の高菜「マンバ」や、二枚貝「たいらぎ」を使った料理は、酢味噌和えやパスタなどさまざまなバリエーションが生まれました。そして好評だったものは、その後改めて地元食材を使ったメニューとして「やさしい食卓」で展開するようにもなりました。

地元の人たちが食材に真剣に向き合い、調査し、そして商品化し、まちの逸品として提供するまでになっているんです。商店街が主導して、ここまで地域の食を盛り上げるというのは他にはあまりないかと思います。

食材のテキストのダイジェスト版(マンバ)
生産者への聞き取りなど徹底的な基礎調査をもとに作成された食材のテキストのダイジェスト版(マンバ)。消費者向けに、食材の概要、歴史、生産状況のほか、栄養価とともに考案されたレシピも紹介されている。
「讃州のめぐみ やさしい食卓」で開催されたワークショップの様子。
「讃州のめぐみ やさしい食卓」で開催されたワークショップの様子。テキストをもとにした食材の紹介や、シェフによる地域食材を使用したバリエーション豊かな料理が提供された。

地域食材を掘り起こして、その価値を活かす料理、商品をつくる

――金丸さんの進められる地域食材リサーチに基づく「食のまちづくり」とは、どのようなものでしょうか。

金丸弘美さん
金丸弘美さん

地元の食材を使った取組を一過性で終わらせず、地元にお金が落ちる仕組みまで考え、さらに自分たちの個性をもアピールできるようにすることです。そこまで考えるとなると、しっかりと地元の食材を掘り起こし、正しく理解することが重要だと思います。

どういうものが収穫されていて、どんな品目があって、誰が作っているのか、基本的なことですが調査が必要です。たとえば、レンコンの産地として有名な土地であっても、ブルーベリーや、イチゴ、カブを作っている人もいるんです。そのほかに、魚も揚がり、養豚も養鶏も盛んであったりするかもしれない。牛乳と肉があり、ブルーベリーがあり、そしてレンコンがある。そうならば、どういう料理ができるか、と組み立てて考えていきます。その食材単品でなく、地域全体で生産されている食材の調査をしておくことが必要になります。

地元の食材は、市場に出ているものが全てではありません。たとえば、小田原にある老舗のかまぼこ屋さんでは「ざっこ揚げ」が人気です。雑魚を使ったすり身を、「本日のざっこ」と看板を掲げて、揚げたてを220円で出す。市場で値段がつかなかった雑魚が売り物になります。農協への出荷対象ではない、庭に生えている柿の木からだって、タルトやパイ、ジェラートを作ることもできます。このような事例はいくらでもありますが、「うちにはなにもない」とか「うちではできない」と言う方が多いんですよね。そういうところに限って、地元の食材を大々的にアピールできる道の駅などに自動販売機を置いてしまう。自動販売機は、1台につき電気代が月5000円ぐらいかかるんですよ。そのコストを回収するにはジュースを200~300本売らなくてはいけません。5台置くとなると、電気代だけで年間30万円かかります。30万円あるなら、自分たちでジュースつくればいいと思うんです。自動販売機ならジュース1本売って利益はせいぜい20円。けれども、出荷できないみかんを使ってジュースをつくったら1杯300円で売れるのです。さらには地元にこんな美味しいものがある、ということをアピールできる。

野菜にしても、各地に「伝統野菜」がありますが、日持ちしないし、数も揃わないことが多い。つまりは、市場に流通させられないのです。たとえば、山形にある昔からのカブは真っ赤で味もぜんぜん違う。そんなカブを使えば、普通の料理であっても、どこにもないカブ料理になります。現在、山形の伝統野菜をふんだんに使ったイタリア料理は、東京でも人気を集めています。地元食材を本当に活かすためには、郷土料理を発掘、進化させて商品として提供することも重要です。

以前、飛騨高山で特産品の宿儺(すくな)かぼちゃを売り出したいと相談を受けたことがあります。地元でどのように食べているのかを尋ねたら「煮物と味噌汁」ということでした。実はこのカボチャ、日本では珍しいものの、ヨーロッパではポピュラーな品種で、イタリアではリゾットやスープに使われているんです。東京でもイタリアンレストランは4800軒以上あって、女の子で賑わっていますよね。そこで、地元のパティシエや、洋食のシェフを集めてメニュー開発をしました。フランス料理のシェフが考案したプリンは、いま、大手ネット通販会社の売上ランキング1位です。かぼちゃプリン自体はどこにでもあるものですが、農家と連携し、品質を理解しているから的確な差別化ができる。そしてここでしか買えないプリンやシフォンケーキ、アイスクリームができた。どれもみんな毎回売り切れの商品になっています。

宿儺かぼちゃ(写真左)と宿儺かぼちゃなどの地域食材を使用して作られた料理(写真右)
宿儺かぼちゃ(写真左)と宿儺かぼちゃなどの地域食材を使用して作られた料理(写真右)。イタリア人シェフは「うちの故郷のと同じだ!」。

食材は、環境や栽培法で味が変わってくるものです。品種によっても違うし、時季によっても違う。だから、その食材を正しく理解しないと、せっかく発見したものの価値を引き出してくれる料理は作れません。つまりは本来の地域性が出てこない。基本をきちんと押さえれば、だれでも良い料理は作れます。大切なことは、食材の正しい理解です。

地元食材をみんなで活かすための「食材のテキスト」

――こうした地域食材を正しく活かした「食のまちづくり」を進めるポイントとなるのが、「食材のテキスト」化なんですね。

食材を掘り起こし、これを調べて「売り」を明確にする。特徴を活かした料理にする。これらの過程で得られた情報を生産者や飲食店などの地元関係者で共有するためのツールが「食材のテキスト」です。

地域や地域の食材を広め、ブランド形成していくには、生産者、販売者、飲食店、料理家、栄養士などの関係者が連携して取組むことが不可欠です。「食材のテキスト」では、その食材の歴史、生産地域、品種、栽培方法、栄養価、加工法など、あらゆる情報を徹底的に調査し、基本の知識となる文章を作ることを推奨しています。単に文章だけではなく、食材によっては写真やイラスト図表などを入れ込んだ膨大な資料になります。

「サフラン」を題材にした「食材のテキスト」
大分県竹田市の地域食材「サフラン」を題材にした「食材のテキスト」。歴史、品種、加工法などが細かく記載されている

テキストがあれば、ただ「おいしい」とか「安心」というだけでなく、「こういう品種でこうだから、こういうふうに美味しい食べ方ができる」「どういう環境の中でこういうものが生産されている」という自分たちの売り、アイデンティティをはっきり伝えることができます。自分たちが作っているものとはなんであるか、その文化背景、栽培法、品質、全部をきちっと語れないと、ブランド形成も食育もありません。

実際、農家の方や役場の方に食材について聞いても、「昔からあった」とか、「じいちゃんの頃は作っていた」みたいな話ばかり。けれども、まずは徹底的に調べてテキスト化しておけば、「400年前から作っている」ぐらいのことは一発でわかり、だれでもその場で先生になれる。先日もレンコン農家さんが「レンコンのテキスト化がされるまで、レンコンの品種が50種類もあることを知らなかった。しかも、品種によって味が全然違うことなんて」と、作っている本人なのに驚いていました。現在では、品種に応じて、「この品種は煮物向き」「これの品種は焼物向き」と、直売所では品種ごとに説明文がついて売られています。

私が食材のテキスト化を本格的に始めたのは、大分県竹田市のかぼす、サフランについてです。2006年のことでした。きっかけは、2004年に訪れたイタリアの「サローネ・デル・グスト」というスローフード協会が主催する食の見本市です。そこに出ていた食材にはすべて詳細なテキストがありました。ワインであれば、土壌調査、品種特定、テイスティング、ソムリエが入って付加価値の高いものとしてテキスト化して売り出す。だからこそ、海外でも産地として有名になって輸出できているわけです。写真入りの豪華本としてテキストが売られているものもありましたね。日本のイタリアンレストランでも、テキスト化されたものを見て輸入しているところが少なくないんです。そこで、テキストから組み立てる必要性を痛感したのです。

PART2に続きます

 

 

登録日 2013年2月26日(火曜)00:00

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