コラム・事例紹介

城下町洲本再生委員会 福井啓太「“賑わうまちの風景”を具現化する、空き店舗を舞台にした手づくり市」

福井 啓太(ふくい・けいた) 兵庫県洲本市

城下町洲本再生委員会 副会長
1982年生まれ。兵庫県洲本市出身。大阪芸術大学卒業。2009年、淡路島にUターン。家業の建設業を営むかたわら、2012年に地元有志とともに「城下町洲本再生委員会」を結成、業務の合間を縫い週末を割いてまちづくりに携わっている。

レトロな魅力を生かしたまちの活性化に向けて

洲本の中心市街地
洲本城跡から見おろす洲本の中心市街地
古い民家が並ぶ街並み
古い民家が並ぶ街並み

洲本市は、淡路島のほぼ中央に位置する人口およそ5万人のまちです。島内の行政と商工業の中心であり、大阪や神戸からの玄関口となってきたその中心市街地は、隣町で育った私にとっても、のどかな島の暮らしの中で一際活気に満ちた場所として子供心に印象に残っている場所でした。

しかし、大学進学を機に島を離れ、大都市での学生と社会人生活を経て島に帰ってきた私が久しぶりに見た洲本のまちは、すっかり様変わりしていました。華やかで賑やかだったアーケードや商店街は薄暗くひっそりとして、生活の匂いに満ちていた路地からは人の気配が消え、子どもの頃に抱いたまちの原風景がそこには見られなくなっていたのです。廃れようとしているまちの風景を前に私は、「自分にも何かできないものか」という思いを抱くようになりました。

こうした思いを抱いていたのは私だけではありませんでした。それがつながり、形になっていくきっかけとなったのは、洲本に異動されてきた県民局職員の方の声かけで地域の商業者や事業者を集めて行われた地域活性化のための小さな会議でした。

洲本の中心市街地の中でも旧市街エリアは、室町時代に熊野水軍が洲本城を構えたことに始まる城下町としての歴史を持ちます。しかしその「歴史」は文字として記録されたものだけではありません。いわゆる名所旧跡や伝統的建造物でなくとも、小路も多い江戸時代そのままの街区構成と明治〜昭和に建てられた趣のある建物のストックが一体となった街並みは、そこはかとない“レトロな雰囲気”を醸し出しています。20人ほどの有志が集まった小さな会議での県民局職員の方の提案は、このレトロな雰囲気を生かした地域活性化ができるのではないか、ということでした。

「城下町洲本再生委員会」は、この提案に賛同した有志によって会議の翌月に結成されました。

複数の空き店舗を会場にした手づくり市イベントで賑わいを具現化する

再生委員会の目指すところは、“まちなかの活性化には若者の定住が不可欠”という観点から、空き家・空き店舗となっている建物にカフェやクリエイターのアトリエ・ショップなど魅力的な店舗を誘致し、若者がまちなかで過ごせる場所と仕事をつくり、引いてはまちなかに若い居住者を呼び戻すことです。

とはいえ、立ち上げたばかりの団体がいきなり誘致活動を始めてもすぐに息切れして長続きしないのではないかというメンバーの間で議論を経て、開催することになったのが「城下町洲本レトロなまち歩き」というイベントです。

このイベントは、まちなかの15軒の空き家・空き店舗を借り上げ、2日間限定で島内外のクリエイターら(=未来の出店候補者)にギャラリーやカフェを出店してもらうというものです。つまり、公園や広場で行うフリーマーケット形式ではなく、空き家・空き店舗を直接会場にしてしまうことで、“まちなかで多くの若者が店を開き、生活する”という私たちが夢描く未来の洲本の姿を一時的に具現化し、そこを来街者の方に「まち歩き」してもらうのです。

これによって、今は人通りの少ないエリアと、使われていない古い建物の魅力を出店候補者にも来街者にも地元住民にも体感・認知してもらうとともに、出店者と大家さんとの交流の機会をつくることで、より効果的に“未来の出店者”の誘致につながるのではないかと考えたのです。

第1回城下町洲本レトロなまち歩きの会場マップと出店者の一覧
第1回城下町洲本レトロなまち歩きの会場マップと出店者の一覧(チラシより)

友人・知人のあらゆるツテを使い出店してもらうと面白そうな出店者を集め、神戸新聞にも開催の概要を記事として掲載していただき、チラシを島内外300箇所程度に配布した甲斐もあって、開催当日は会場となった15軒の空き家・空き店舗に、地域住民はもちろん島内外から70軒を超える出店者が集まりました。

また、人通りの少ない通りでは地元高校生による紙芝居や地元オペラ歌手による路上ライブなど、地域の人的リソースをフル活用したミニイベントを行うことによって、エリア一帯を回遊できる仕掛けをつくりました。古い民家に足を踏み入れ、クリエイターの作品を手に取り、まちの賑わいに耳をそばだて、地のものを鼻と舌で味わうという、未来の洲本がそうあるべき五感で楽しめるまちの風景がそこに立ち上がっていきました。

来場者は私たちの予想をはるかに超えて2日間で合計8000人に達し、メンバーも次につながる達成感を得、出店者・来場者双方からの要望もあったことから半年後の10月には第2回を開催。この時はマンパワーの不足から出店数を絞り45ブースにするなど規模を縮小したにも関わらず、2日間で9000人と第1回を超える来場者数を記録しました。

イベント当日の風景
イベント当日の風景

年配者が人脈と経験をフル活用して若者が活躍する舞台をつくる

イベント当日の様子
イベント当日の様子

最初の会議から再生委員会の結成を経て「レトロなまち歩き」を開催するまでに要した期間はたったの4ヵ月でした。せっかく「まちをなんとかできないか」という強い思いを抱えていた同志に出会えたのだから、夢を語るだけでなく、とにかく実践したかったのです。

そんな強烈な思いを抱いていた再生委員会のコアメンバーは5人で、最年少の私が30代、他のメンバーは60代が3人、70代が1人という構成です。若者や家族連れが大勢訪れるイベントをスピード感を持って仕掛けたのは、「洲本のまちを若い世代が活躍できる舞台にしたい」という思いを持った年配者なのです。

委員会の会長は、淡路島唯一の映画館「洲本オリオン」の経営者である野口順子さん。2日間限定とはいえ、15軒の空き家・空き店舗を島外の若手クリエイターのような“ヨソ者”の活躍の舞台として借り上げることができたのは、地域住民でもある野口さんが普段から地域の方と培われた信頼関係のもと、大家さん一人一人と個別にお話をしていったからこそです。

一旦お借りする了承を得ても、次に待っているのは長年使われていなかったため床が抜けていたり立て付けの悪くなった建具などの修理。これには建築家だったメンバーが持てる能力をいかんなく発揮しました。

また、大手企業の法務部門に長年勤めていたメンバーは、その経験を生かして建物を一時使用する際の権利関係や法規、保険などのリスク管理を万全にするなど、昼間は仕事がある若手では難しい問題を、アクティブシニアたちが長年蓄積してきた経験やノウハウ、人脈を生かし、スピード感を持って解決してきたのです。

再生委員会はこうしたコアメンバーの他にも、淡路島での生活や地域活性化に強い関心を持つ若者や移住者など、15名ほどメンバーがいます。イベント開催にあたっては補助金は使わず、メンバーが1人1万円ずつ出し合って原資とすることで実現にこぎつけたのでした。

また、まちの将来につながるような業種・業態を考えながら出店者の選定を行っているほか、カフェの出店者と陶器を展示販売する陶芸家を同じ空き店舗に配置するなど新たな創造が生まれるようなマッチングをしたり、2回目からは出店者や出店場所をランダムに変えることによってその都度新しい街並みを体験できるようにしています。

複数店舗がリアル出店、古くて新しいエリアをつくる

(左上)第3回「城下町洲本レトロなまち歩き」のチラシ(右上)スモトレトロ不動産のチラシ(右下)「洲本レトロこみち」に掲げられるフラッグ
(左上)第3回「城下町洲本レトロなまち歩き」のチラシ
(2012年12月にオープンした「こみち食堂」前で)
(右上)スモトレトロ不動産のチラシ(右下)「洲本レトロこみち」に掲げられるフラッグ

再生委員会では現在、新たなまち歩きマップを作成するとともに、第3回「城下町洲本レトロなまち歩き」の準備を進めています。ただ、イベントは目的ではなく、あくまで出店者を集め、降りていたシャッターを開き、まちに新たな風景をつくり出す手段です。

このため、再生委員会では昨年10月、新プロジェクト「スモトレトロ不動産」をスタートしています。このプロジェクトでは実際に仲介業務を行うのではなく、不動産屋さんと共同で空き物件の内覧ツアーや活用方法を考えるトークセッションの企画・開催、サブリース等を行っています。

こうした複合的な取り組みの成果として、昨年12月には映画館・洲本オリオンのある小路の建物の中に2店舗が新規出店しました。一軒は野口さんも入会している地元の婦人会が地元の食材を使って料理を提供する「こみち食堂」、そしてもう一軒は私自身が店主となり、淡路島の食やこの島でしか買えないものを企画・販売する「淡路島の食と生活のお店 とらかめ舎」です。ここは再生委員会の事務所として新たなまちづくりの拠点という位置づけをしています。

そして私たちはこの小路を「洲本レトロこみち」と名づけました。「こみち」というのは江戸時代の地図にこの通りが「小路」と記されていたことにもよるのですが、エリアに古くて新しい名前をつけたり、まちの人にインパクトを与えられるよう2店舗をほぼ同時にオープンさせたりすることで、それまでは見向きもされなかった路地に「あのエリアは最近ちょっと面白いことになっているみたいだよ」というイメージを持ってもらえるようにしました。

その甲斐あって出店を希望される方からの問い合わせも多くなり、2013年に入ってからは同じこみちにチョコレート屋さん、手作り雑貨屋さんがオープンし、現在はジェラート屋さん、照明作家さんのギャラリー、そしてカフェのオープンに向けて準備を進めているところです。

私たちはこの“こみち”を中心に店舗の集積を進め、出店者の方々の生業を持続・発展させ、若い人が住みたい思う魅力的なまちの風景を恒常的なものにしていくため、これからも試行錯誤を続けていこうと考えています。城下町再生の取り組みはスタートしたばかりで、収益も、組織も、マンパワーも十分ではありません。

しかし私自身、こうした取り組みを通して、今まで見えていなかった、まちで暮らす人やまちを訪れる人との出会いから、既にまちの風景の見え方が変わってきています。このことが、そうした課題を必ず乗り越えていこうというモチベーションとなっています。この界隈に多種多様な「人」が入ってきて、「住む・働く・遊ぶ」が徒歩圏内で叶う──そんなコンパクトなまちを必要としている人々がまだまだ沢山いることを感じています。

登録日 2013年3月29日(金曜)01:00

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