コラム・事例紹介

第69回 ソフト・ディベロップメント考②~金融技法に留まらないファイナンス~土肥健夫

土肥 健夫

土肥 健夫(どひ・たけお)

株式会社事業開発推進機構 代表取締役
早大卒業後、松下政経塾に入塾。松下幸之助氏の指導の下、地域活性化・都市経営・商業振興等に関する研究に従事。セゾン・グループの流通・開発関連のアソシエイト・プランナーを兼務。平成3年、現会社設立。平成8年、中小企業診断士として登録。行政、流通関連業からの委託に基づく計画策定や、地域活性化、商業・観光関連施設の事業プロデュースを専門とする。ご当地検定黎明期、中心市街地活性化の一環としての明石市における「タコ検定」のプロデュース、須崎市の「鍋焼きラーメン」を基軸にした活性化、別府市の「オンパク」に関連した常設事業者育成プログラム等、限られた市場規模でも低コストで自立・継続的な運営可能なソフト事業の確立や、地域ブランドの構築に従事。地域活性化伝道師、中小企業基盤整備機構中心市街地サポートマネージャー、同中心市街地協議会アドバイザー。

誰もが腰を引くファイナンス

 「ファイナンス」、良く耳にする言葉である。ただ何とも難解である。まちづくりの会議等でこの言葉を聞いた途端、腰を引く人が多い。
 私が取り組んでいる地域・商業関連の各種事業のプロデュースでも、ファイナンスは非常に大切である。ハード事業だけでなく、本稿の題目でもあるソフト・ディベロップメントでも同様である。

ファイナンスのポイントは4つだけ

 簡単に申す。ファイナンスとは「金回し」である。ポイントは4つだけ。「投資の圧縮・適正化」、「収益拡充」、「経費節減」、「資金調達コストの引き下げ」である。どんな案件であれ、この4つをきちんと押さえておけば、財務面での大怪我は防げる。

投資圧縮、経費節減だけではやる気も減退

 4つのポイントの内で最も熱心に行われているのが、投資圧縮・経費節減に係る取り組みである。なぜだろうか。
 国全体の人口も減少傾向に転じ、県庁所在地クラスの都市でさえも、市場は縮小傾向となっている。市場が小さくなれば、初期投資を圧縮したり、継続してかかる経費を節減したりするというのが、誰もが考えることである。
 投資圧縮や経費節減は確実に効果が上がる。いずれも工事・物品納入・サービス提供等の契約をすることから、基本的には「契約の範囲内」に投資や経費が収まる。
 他方、収益は予測が難しい。努力によって改善・向上の可能性はあるが、不確実である。天候・寒暖だけで、大きな変動が生じる。こうしたこともあって、まちづくりに関わらず多様な業界で、確実な効果を求めて様々な投資圧縮・経費節減方策に力を注ぐのである。
 良いことだらけに思える投資圧縮、経費節減だが、極限まで追求しても参画する人達の夢は膨らまない。どちらかと申せば“やることを絞り込むこと”が中心となるからである。投資家サイドから見ても、このような“ギリギリの事業”は堅実だが面白味に欠ける。
 投資家まで含めた関係者のやる気、事業機運を昂揚するためには、不確実かつ困難ではあるが、オーソドックスに収益拡充に切り込まなければならない。

ファイナンス改善の切り札は「やる気」

 ファイナンスというと、“銭・金のお話し”という印象が色濃い。改善となると“どこからかお金を持ってくる”ということが中心になる。だから金融業界等の人以外にはわかりづらかったり、自分とは無縁と考えたりしがちになるのである。確かに、銭・金のお話しは大切だ。でもそこだけ考えていても、中々進まない。
 私はオーソドックスな金融技法に則ったファイナンスの改善も専門としている。高度の金融技法を知っていると、何でも出来るかのように誤解される。だがそうした金融技法以上に大切なものがあると考えている。
 それは非常に泥臭いが、「やる気」である。考えて頂きたい。確かに人は高度な理論や技法によっても動く。ただそれ以上に「やりたいこと」、「やるべきこと」等、やる気に関連したことによっての方が、遥かに強く動機付けられるからである。「やりたい人」・「やる気がある人」を活用することが、ファイナンスのポイントになるのである。

投資・資金調達を「やる気」で円滑化

 「やる気」によるファイナンスの改善について概観する。まずは投資と、これと表裏をなす資金調達について考える。
 一般的な投資、その事業原資の調達をする。自己資金が潤沢にあれば、自己資金だけで外部から資金を調達せずに事業が構築・実現出来る。だがそうした恵まれた事業者や地域は限られている。
 自己資金が不足する場合、出資や融資を内外から求める必要がある。無論、善意で比較的好条件で協力してくれる人や組織もあろう。ただそうした好条件は、基本的には例外的なものと考えておくべきである。では、どうすれば良いのだろうか。ここで「やりたい人」・「やる気がある人」の出番となる。例を見る。
 大学卒業以来、自営業を続けていると、そんな虚勢を張りたいとも思わないが、「自分の店を持つこと」への憧れ、そこまで行かずとも「店の馴染みになること」への憧れはあるものだ。宴席等でも「俺の店に行こう」等という言葉を良く耳にする。無論、お店としてみるとそんなに一人のお客様に対して思い入れ等あるはずもない。
 だったら小口出資の仕組みを作り、「俺の店」の夢を叶えて上げれば良い。そうすれば、自慢話をしたいがため、“勝手に”友人や知人を連れて来てくれる。そこで形式的でも“オーナーに相応しいおもてなし”をして差し上げれば、出資者が満足するだけでなく、同伴者までも出資者になるかも知れない。資金調達コストは些少、おまけに販促・宣伝費の節減効果かあるなんて、夢みたいではないか。
 もっと大規模な例示もする。プロ野球の阪神タイガースでは平成22年に、本拠地・阪神甲子園球場の大規模改修を行った。球場自体の他、外構部の工事までも行われた。
 御存知のように、阪神は巨人と並んで、熱狂的なファンが多数存在する。球団の戦績に関わらず、何の“見返り”も期待せず、球場に足を運ぶ。球団はこうしたファンに注目した。そして外構部の舗装材である煉瓦のブロックを、資金提供者の名前を刻印し継続的に10年間敷設し続けることを条件として、一個20,100円(2010年に因んだ。)で3万個限定で販売した。煉瓦は完売した。すなわち阪神は6億300万円の資金調達に成功したのである。
 本来ならば資金調達には配当や金利等のコストが掛かる。だが阪神は一個100円程度の煉瓦と引き換えに20,100円の資金を調達して収益を得ている。しかも資金を提供したファンは、自分の名前が刻印された煉瓦を自慢したいがため、10年間にわたって高頻度で、友人・知人を連れて来場してくれる。言い換えれば、お金を払って宣伝・集客役を確保しているようなものである。
 類似の取り組みは、昔から奈良の東大寺の改修での瓦の寄付に係る勧進等でも、度々用いられてきた。きちんとした取り組みに係るイメージ付けと、資金提供者の嗜好の研究をすれば、このような取り組みが可能となるのである。

「やる気」で“経費を収入”に

 次に経費の節減と収益拡充とについて考える。両方とも一度に出来る取り組みを紹介する。
 人件費は固定費である。経費節減の中でも難しい。お世話になっている中堅で伸び盛りの飲食チェーンでの取り組みを紹介する。
 同社では“料理人学校”のようなものを開講している。同社のイメージを活かし、そこで修業したいという“やる気”のある質の良い受講生を募り、“授業料を受け取って”料理や店舗経営を教えている。受講生は実習的に従業員としても働く。ほぼ無給だ。
 どういうことが起きているか、おわかり頂けたと思う。本来ならば経費の中で大きな比率を占めるはずの人件費が大幅に削減され、代わりに“受講料”という収入が確保されているのである。
 類似の考え方に立つ取り組みをもう一つ。蕎麦のチェーン店で提案・実施しているのだが、本来ならば産業廃棄物として有償で廃棄している蕎麦殻を利用した枕を制作・販売している。これによって廃棄物処理に係る経費の節減、健康的な睡眠を確保したいという“やる気”がある人への枕の販売による収入の確保が一度に出来ている。
 更にまちづくり関連でも、自分の知識をひけらかしたいという“やる気”のある人に、ボランティアでガイドをやって貰い、低廉な経費で収入を得るようなことも実現した。
 あざとく収益確保を狙い過ぎてはいけない。有意・優秀な人達が進んで“やりたいと思える環境・舞台・ポジション”を作り上げることがポイントである。「やりたい人」にとっての「金銭に代わる“期待収益”」は、気持ち良く自己実現出来ることなのだから。
 例示が極端に映っただろうか?いや、決して極端ではないのだ。高度な金融技法を用いるにしても、基本的には投資・融資をする主体の配当・利子、金融債権の処分利益等の期待収益を確保して上げる必要がある。経済的にこれらの期待収益を確保することを目指すのは当然として、更に当該事業への資金投下の魅力、リターンの確実性や信頼性を高めるためには、例示のような“やる気”のある人の積極的・主体的な参加を促せるほどの強固なブランド・イメージや、参加の誘因が必要なのである。
 まちづくりでも、たとえ対象がソフト事業であれ、高度な金融技法の検討と並行して、こうした高度に心理的な動機付けのシナリオや仕組みを作り上げることがポイントである。

関連リンク

https://www.facebook.com/takeo.dohi

 

登録日 2014年3月25日(火曜)23:58

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