コラム・事例紹介

「古いからこそ面白い」築100年を目指すビンテージビルの取り組み(後編)
株式会社スペースRデザイン 吉原 勝己さん

吉原 勝己

吉原勝己(よしはら かつみ)
1961年福岡市生まれ。九州大学理学部卒業後、旭化成で医療事業の研究に従事。2000年家業の吉原住宅を引き継ぎ、賃貸リノベーション事業に乗り出す。2008年、株式会社スペースRデザイン設立。九州大学大学院人間環境学府、九州産業大学非常勤講師。NPO法人福岡ビルストック研究会理事長。福岡県中小企業家同友会ソーシャルビジネス委員会まちづくりビジネス本部長。

より大規模な冷泉荘の再生に取り組まれたのはそのあとですね。

 2003年、2004年と山王マンション、そして新高砂マンションで一部屋ごとのリノベーションを多数手がけ、ノウハウも相当積み上げることができました。2006年からは、一棟をフルに活用するレベルでのリノベーション事業にいよいよ取り掛かります。
 そこで、九州有数の飲食街である中洲の隣町に位置する冷泉荘の再生事業化をスタートしました。入居者も中洲で働いている方たちが多かったものの、トラブルを回避するために引越し先も予め設定していたので、思いの外、速やかに立ち退きは完了しました。
 しかし、問題はどう再生するかです。イメージしたのは同潤会アパート(*)でした。古いことに価値をおいたブランディング政策が、経営の中心に常にあります。そして、同規模の新築賃貸マンションの家賃設定を超えることがプロジェクトの骨格です。既に、山王マンションと新高砂マンションの経験から、新築を超える家賃設定でも可能だろうということは確認できていました。

 その頃には、建て替えという選択肢はもう頭にありません。ただ、冷泉荘は全20室です。建て替えたほうがコスト的にも良いかもしれません。しかし、建て替えることで「レトロ、ビンテージ」という優位性を失うのが目に見えていました。

 当時は新築が競うように建てられ、そのような中で建て替えをするということは、レッド・オーシャン(*)に入ることを意味しています。そこに漂う虚しさと、経営的には全く興味のない建て替えという判断をする気にはなれません。何としてもこの古い建物を、古さを生かして再生させる…そんな思いをより強くさせました。

 とは言え、リノベーション前の冷泉荘は強烈な異臭を放ち、建物内は吐き気がする始末でした。そんな状態でしたので、冷泉荘の最初の第一期は3年間限定の契約とし、家賃も月額3.5万円と、福岡市内でもかなり安い賃料に設定しました。
 期間を限定したのは継続的にやれるのか少々不安だったからですが、入居者は主にアーティストたちでしたので、彼らにはDIYで自由に部屋を作ってもらい、住居だった物件を事務所にしたり、メディアに出る努力もしてもらいました。
 また、敷金不要、原状回復不要とする一方で、中途解約不可、地元の祭に参加するなど、ちょっと変わった契約条件を付けました。その結果、この3年間で入居者の皆さんが活躍してくれて、予想通りたくさんの取材が来て、冷泉荘の名前が福岡県内に広がっていきました。
 もちろん、月額3.5万円という家賃は経営的にも厳しい価格設定です。しかし、その後の10年間で、5万円、6万円と段階的に上昇させていくことができたので、建物全体の利益は1.4倍へと上がり続けています。

 順調に推移してきたところで、耐震補強工事にも着手しました。
 福岡市内はスクラップアンドビルドで、どんどん新築物件が建てられているため、古いビルが取り壊されていく中、わざわざ耐震補強をやる人は珍しく、その頃の福岡市のRCビルの耐震調査の補助金はほとんど当社で使っていたのではないでしょうか(笑)。
 当然、耐震補強にはそれなりのコストが掛かります。しかし、意外なことに耐震補強をしたことで冷泉荘の売上は1割近く伸びたのです。というのも、耐震のために設計を見直していく中で、今まで使いづらかったスペースを生かすことができるようになりました。有効面積、つまり使える面積が結果的に増えたことで、賃料を増やすことが出来たのです。即ち、収益に貢献する耐震がある、攻めの耐震という感覚を持つべきだと感じています。

 現在、冷泉荘や山王マンションには大学の建築学科の有名な先生や、博多人形の人形師の方のアトリエが入っています。古いビルは、入居者がブランドそのものなのです。

 

*同潤会アパートは、関東大震災後の復興住宅として、大正末期から昭和初期にかけて建設された鉄筋コンクリート造都市型集合住宅。東京、横浜に16カ所存在していた。立地も良く、歴史的建造物として保存運動も多数あったものの、2013年を最後に全て取り壊された。

*「レッド・オーシャン」とは、血で血を洗うような競争の激しい既存市場をいう。  

冷泉荘

生まれ変わった「冷泉荘」は、年間2万人が訪れるビンテージビルに

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関連リンク

株式会社スペースRデザイン
吉原住宅有限会社
NPO法人福岡ビルストック研究会
「古いからこそ面白い」築100年を目指すビンテージビルの取り組み(前編)

登録日 2019年3月26日(火曜)00:00

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